就労継続支援A型は、障がいがある方が雇用契約を結んで働けるサービスです。とはいえ、いざ検討すると、利用条件や給与面など気になる点が多いかもしれません。
本記事では、就労継続支援A型の概要やどんな人が利用できるのか、仕事内容や賃金の実態などを幅広く解説します。一般就労への移行する流れやメリット・デメリットも取り上げるので、実際に通うイメージがつかみやすくなるでしょう。ぜひ、ご自身に合った道を見つけるきっかけにしてください。
就労継続支援A型とは
就労継続支援A型は、障がいのある方が雇用契約を結び、職業訓練と賃金を得ながら働ける福祉サービスです。以下2つを押さえておくと、利用前の理解が深まります。
- 就労継続支援A型とB型の違い
- 就労移行支援・就労定着支援との違い
これらを把握することで、ご自身の状況に合った選択がしやすくなるでしょう。
就労継続支援A型とB型の違い
両者の最大の違いは、雇用契約の有無です。A型の場合は雇用契約を結ぶため、利用者は最低賃金以上の賃金を得ることが基本となります。一方、B型では利用者は雇用契約を結ばず、作業に応じた工賃が支払われる仕組みです。
したがって、A型のほうが安定した収入を得やすい反面、「厳しい労働条件を課されるのではないか」といった不安を抱く方も少なくありません。また、B型の利用者は障がいの状態や体力面で負担を軽減したい人が多く、A型と比べて労働時間や出勤日数が柔軟に設定されている事業所も多いです。
就労移行支援・就労定着支援との違い
就労移行支援は、おもに一般企業への就職を目指す人の訓練やサポートを提供するサービスです。利用期間に制限(通常2年間)があり、その間にビジネスマナーや職場実習などを受け、安定した就職を目指します。
一方、就労定着支援はすでに一般企業に就職した方が職場環境に順応できるよう、定期的な相談や助言を行うのが特徴です。いずれもA型・B型とは異なり、就職後のフォローや一般就労前の準備に重点を置いています。つまり、就労移行支援は「就職のためのトレーニング」、就労定着支援は「職場に定着するための援助」と整理できるでしょう。
就労継続支援A型はどんな人が利用できる?
就労継続支援A型を利用したいと考えたとき、疑問は多いかもしれません。以下3を押さえておくと、サービスの活用イメージがつかみやすくなります。
- 年齢制限・利用期間の有無
- 障がい者手帳や受給者証について
- 障がい年金・生活保護との併用可否
自分の状況に合うかどうか、一度確認しておくと安心です。
年齢制限・利用期間の有無
就労継続支援A型を利用できるのは、原則18歳以上65歳未満の方とされています。ただし、地域によって65歳を超えても継続利用が認められるケースがあり、一律に決まっているわけではありません。身体的・精神的な状態や生活環境など、さまざまな要因を含めて自治体が判断するため、年齢を理由に一概に利用をあきらめる必要はないでしょう。
また、利用期間も厳密な上限が定められているわけではなく、個々の状況や事業所との契約内容によって異なります。通院やリハビリとの両立を考えている場合は、事前に期間面の融通がきくかどうかを確認すると安心です。
障がい者手帳や受給者証について
就労継続支援A型を利用するには「障がい福祉サービス受給者証」が必要ですが、障がい者手帳は必須ではありません。医師の診断書や自立支援医療受給者証などで障がいや疾患の状態を証明できれば、受給者証の申請が可能です。これは、障がいの程度や種類が一律ではないため、個別の判断が行われる仕組みです。
手帳を持っていないものの体調や症状に不安がある方は、主治医や役所の福祉窓口に相談してみましょう。発達障がいや精神障がいなど、外見から分かりにくい障がいでも対象となるケースは少なくありません。必要書類や手続きは自治体ごとに細かい違いがあるため、早めの情報収集が大切です。
障害年金・生活保護との併用可否
障害年金や生活保護の受給中でも、就労継続支援A型を利用できる場合があります。障がい年金を受給している方は、A型事業所での雇用契約による給与と年金を合わせて生活の安定を図るケースも珍しくありません。
ただし、生活保護を受けている方は収入が増えると保護費が減額される場合があるため、事前にケースワーカーや自治体の担当者へ相談しておくと安心です。生活保護が完全に打ち切られるかどうかは、得られる収入の額や家族構成などによって異なります。いずれにしても、受給者証や手続き・各種書類の整合性を確認するため、役所や事業所と密に連絡を取りながら進めることが大切です。
就労継続支援A型の仕事内容・1日の流れ
就労継続支援A型では「どんな仕事をするのか」「サポートはどの程度受けられるのか」といった疑問が浮かぶかもしれません。以下3つを知っておくと、実際の勤務イメージが具体的になるでしょう。
- おもな業務例
- 事業所内の職種
- サポート体制・1日のスケジュール
詳しく解説します。
おもな業務例
A型事業所では、利用者の障がい特性や得意分野に合わせてさまざまな仕事が用意されています。代表例は飲食店の調理補助や清掃業務、軽作業としての部品の仕分け、農作業としての収穫や出荷準備などです。また、パソコンを使った入力作業やデータ管理など、事務系の仕事を扱うところもあります。
これらの業務は一般企業と同じような作業環境が整っていることも多く、「A型だから単純作業ばかり」というわけではありません。利用者の希望や体力、スキルレベルに応じて担当を割り振る仕組みを設けている事業所が多いため、「自分に合ったペース」で働くことが可能です。
事業所内の職種
A型事業所では、利用者を支援するスタッフが複数の役割を担っています。たとえば、全体の運営を管理する「管理者」は、事業所の方針や運営計画を決める責任者です。さらに、利用者に対して作業を指導する「職業指導員」、生活面のサポートや相談を担当する「生活支援員」などが存在します。
それぞれが連携しながら利用者一人ひとりの状況を把握し、最適な支援を提供するのが特徴です。こうした職種の組み合わせによって、利用者は働きながら訓練やフォローを受けられるため、スキルアップや体調管理がしやすい環境が整えられています。
サポート体制・1日のスケジュール
就労継続支援A型事業所の1日は、朝のミーティングから始まることが多いです。体調チェックや当日の作業内容の確認を行い、そのあとは利用者それぞれが担当の仕事を進めます。昼休憩をはさんで午後の作業を終えたら、終了前に振り返りや報告の時間を設けるケースも珍しくありません。
体調を崩しやすい方には定期的な休憩を推奨するなど、配慮が行き届いているところが多いです。また、必要に応じてスタッフとの面談や相談の機会が設けられ、就労に伴う悩みを早めに解消できるのもA型の強みといえます。
就労継続支援A型における給料・賃金・働き方の実態
就労継続支援A型で働く際、経済面の不安を抱く方は多いです。以下4つについて理解を深めることで、実際の賃金水準や支援の仕組みを把握しやすくなります。
- 平均賃金・最低賃金との関係
- 手取り額や社会保険
- 就労継続支援A型は「生活できない」は本当?
- A型事業所は「やめとけ」といわれる理由とは?
事業所を選ぶうえで、これらの情報は大切な判断材料となります。
平均賃金・最低賃金との関係
A型では雇用契約を結ぶため、最低賃金を下回る賃金設定は原則認められていません。しかし、利用者の障がい特性や労働時間の短さなどにより、実際の月収が最低賃金の計算どおりにならないケースも。
厚生労働省の調査によると、令和5年度の就労継続支援A型の平均給料は月額86,752円、令和4年度は月額83,551円と、年々上昇傾向にあります。ただし、地域差や事業所の経営状況によって大きく異なるのが現状です。事前の見学や質問を通じて、「どのくらい働けるか」「収入はどれくらいか」を具体的に確認しておくと安心です。
手取り額や社会保険
就労継続支援A型で働く場合、労働条件が法定基準を満たしていれば雇用保険や社会保険に加入できます。ただし、雇用保険と健康保険・年金保険では加入要件が異なるため、勤務時間や日数によっては一部の保険だけ加入するケースもあるでしょう。
その代わり、保険料を支払うことで将来的な年金額が増えたり、病気やケガをした際に保障が手厚くなったりするメリットがあります。利用者によって障害年金との併用も考えられるため、「どの保険に加入できるのか」「手取りはどれくらいか」を事前に確認しておくことが大切です。
就労継続支援A型は「生活できない」は本当?
A型事業所で働くと「生活できないほど給料が低い」という声を目にすることがありますが、実態は人によって大きく異なります。フルタイム勤務が可能であれば、最低賃金ベースで安定した収入を得られるケースも。
一方、障がいの状態や通院頻度に応じて短時間勤務を選ぶ方も少なくありません。その場合、賃金は相対的に低くなるため、生活費をまかなうには障がい年金や家族のサポートが必要になることもあるでしょう。とはいえ、働きながらサービスを利用できる点や、一般就労へ向けた訓練が積める点はA型ならではの利点です。
A型事業所は「やめとけ」といわれる理由とは?
「A型事業所はやめとけ」という意見を見かけることがあります。その背景には、助成金目当てで設立された事業所が一部存在し、利用者の雇用や訓練よりも経営の維持を優先してしまうケースが含まれるからです。結果、利用者が十分な支援を受けられなかったり、賃金や労働条件が事前説明とは異なったりしてトラブルに発展する例もあります。
しかし、すべての事業所がそうとは限りません。質の高い支援を行っているA型事業所も多く、就労移行支援並みの手厚いサポートを受けられるところも存在します。見学や面談を重ね、職員の対応や利用者の雰囲気を確かめることで、「やめとけ」といわれるようなリスクを回避できます。
就労継続支援A型のメリット
就労継続支援A型にはさまざまな利点があります。ここでは、以下2つの利点を紹介します。
- 雇用契約による社会的地位
- サポートの手厚さ
それぞれ見ていきましょう。
雇用契約による社会的地位
就労継続支援A型の特徴の1つに、雇用契約を結ぶことで社会的地位が確立されるという点があります。一般的なアルバイトやパートと同様に、契約書を交わしたうえで働くため、賃金や労働時間といった条件が明確になりやすいのです。障がいがある方にとって、対等な雇用関係が築けることは大きな安心材料といえるでしょう。
雇用保険や社会保険への加入要件を満たせば、健康保険や年金保険、失業給付などを受けられる場合もあり、将来的な保障が得られるのもメリットです。また、就労経験として履歴書に書けるため後々、一般企業への応募を考えている方にとってはアピール材料にもなります。
サポートの手厚さ
就労継続支援A型では、障がい特性や体調に合わせた個別サポートを受けながら働けるため、無理なく仕事を続けやすいのが魅力です。作業の進め方を詳しく教えてくれる「職業指導員」や生活面の相談に乗ってくれる「生活支援員」が常駐している場合が多く、不安を早期に解消できます。
通院やリハビリとの両立が必要な場合も、シフトや休憩時間を調整してくれる事業所が多いため、働きながら治療やメンテナンスを続けることも可能です。また、定期的なモニタリングや計画調整を行い、一人ひとりの進捗を見守ってくれるのもA型ならではの強みです。
就労継続支援A型のデメリット
就労継続支援A型には多くの利点がある一方で、利用を検討するうえでは課題も知っておく必要があります。以下2つを確認し、デメリットを踏まえたうえで自分に合った働き方を模索することが大切です。
- 賃金水準の限界
- 事業所トラブルのリスクなど
詳しく解説します。
賃金水準の限界
就労継続支援A型では最低賃金が適用されるとされているものの、実際の賃金水準が生活費を十分にまかなえる水準に達していないケースは少なくありません。フルタイム勤務が難しい方や、時間給で働くことによって働ける時間帯が限られている方など、障がい年金や家族のサポートに頼らざるを得ない場合も。
また、事業所によっては経営状況や業務内容の都合上、十分な稼働時間を確保できないこともあるでしょう。こうした環境では、長期的に安定した収入を得るのが難しく感じられるかもしれません。
事業所トラブルのリスクなど
A型事業所の中には、利用者の雇用契約を守らずに経営の安定だけを優先するケースも存在します。たとえば、契約時の説明と実際の労働条件が乖離し、スタッフの指導体制が不十分だと、適切なサポートを受けられないまま業務をこなすことになりかねません。結果、賃金面や労働時間のトラブルが起き、人間関係のストレスが大きくなることもあります。
さらに、事業所自体の経営が不安定で、急に閉鎖や撤退を余儀なくされるリスクも否定できません。こうした状況を回避するためには複数の事業所を比較検討し、慎重に選ぶことが不可欠です。
A型から一般就労へステップアップするには
就労継続支援A型を利用していると、「ゆくゆくは一般企業で働きたい」と考える方も少なくありません。ここでは、以下3つを解説します。
- 就労継続支援A型で得られるスキル・経験
- 就労移行支援や一般企業との連携
- 失敗しないための心構え
それぞれ見ていきましょう。
就労継続支援A型で得られるスキル・経験
A型では実際の職場と同じように雇用契約を結んで働くため、勤務態度や対人スキル、時間管理など企業で働くうえで重要な要素を身につけられます。たとえば、毎日決まった時間に出勤し、上司や同僚とコミュニケーションを取りながら作業を進めるといった基本的な習慣作りがあげられます。
さらに、清掃や軽作業、事務系のパソコン業務などを通じて、実践的な技能を培えることも魅力です。こうしたスキルや経験は、一般企業に応募する際に「就労実績」としてアピールできる材料となります。
就労移行支援や一般企業との連携
A型事業所での経験を生かして一般就労へ移行する際、就労移行支援との併用や一般企業との連携が重要な鍵となります。就労移行支援は、ビジネスマナーや職場実習など、一般就労に特化したトレーニングを提供するサービスです。A型で働きつつ、必要に応じて就労移行支援のプログラムに参加することで、より具体的なスキルアップを図れるでしょう。
また、事業所によっては一般企業とのパイプを持っている場合もあり、利用者の就職をサポートする仕組みが整えられています。結果、企業の採用担当者も「A型での勤務実績」を評価しやすくなるため、就職活動がスムーズに進む可能性が高まるでしょう。
失敗しないための心構え
A型から一般就労へ移行する過程では、無理をして体調を崩し、職場に馴染めず早期離職につながるケースも考えられます。自分の障がい特性や得意・不得意を理解し、周囲のサポートを適切に活用することが大切です。就職先の企業だけでなく、A型事業所の職員や家族、医療機関などと情報を共有しながら、職場環境や勤務形態を調整していくのが望ましいでしょう。
また、早めに「困っていること」を周囲に伝え、相談できる場を持つのも重要です。「少しずつ慣れていく」という姿勢で取り組むと、失敗を最小限に抑えながら自分らしいキャリアを築ける可能性が高まります。
まとめ:自分に合った就労継続支援A型を選んで安心して働こう
就労継続支援A型は、利用者それぞれの特性に合わせた雇用契約を結べるため、安心して働きながらスキルを身につけやすいのが魅力です。大切なのは、事業所の運営方針やサポート体制を確認し、自分の障がい特性や将来の希望に合っているかを見極めることです。
見学や相談で疑問を解消しておけば、不安を減らし、より安定した就労生活を送る土台を築けます。自分にぴったりのA型事業所を見つけ、安心してキャリアを広げていきましょう。
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